複素数値の数列 {an } に対し、級数 ∑∞n =0 an が値 l に収束するとは、部分和
s
n
=
∑
k
=
0
n
a
k
{\displaystyle s_{n}=\sum _{k=0}^{n}a_{k}}
が通常の数列の収束の意味で値 l に収束することで定義される。一方、総和法では、通常の収束の意味を超えて、より広い形での級数の収束を定義する。
例えば、an = (−1)n とするグランディ級数 ∑∞n =0 (−1)n は
s
0
=
1
,
s
1
=
0
,
s
2
=
1
,
s
3
=
0
,
⋯
{\displaystyle s_{0}=1,\,s_{1}=0,\,s_{2}=1,\,s_{3}=0,\cdots }
となり、通常の意味では収束しない。ここで、x を |x | < 1 を満たす複素数とし、xn を各項 an に収束因子として乗ずると、ベキ級数
f
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
(
−
1
)
n
x
n
=
1
−
x
+
x
2
+
⋯
{\displaystyle f(x)=\sum _{n=0}^{\infty }(-1)^{n}x^{n}=1-x+x^{2}+\cdots }
は、|x | < 1 で
f
(
x
)
=
1
1
+
x
{\displaystyle f(x)={\frac {1}{1+x}}}
に一様収束 する。このとき、左極限 x → 1− は収束し、
lim
x
→
1
−
f
(
x
)
=
1
2
{\displaystyle \lim _{x\to 1-}{f(x)}={\frac {1}{2}}}
となり、級数 ∑∞n =0 (−1)n に値 1/2 を対応させることができる。
複素数値の数列 {an } に対し、ベキ級数
f
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
a
n
x
n
{\displaystyle f(x)=\sum _{n=0}^{\infty }a_{n}x^{n}}
が |x | < 1 で収束し、左極限が
lim
x
→
1
−
f
(
x
)
=
s
{\displaystyle \lim _{x\to 1-}{f(x)}=s}
と有限値 s になるとき、値 s にアーベル総和可能 (Abel summable) といい、
A
-
∑
n
=
0
∞
a
n
=
s
{\displaystyle \operatorname {A-} \sum _{n=0}^{\infty }a_{n}=s}
もしくは
∑
n
=
0
∞
a
n
=
s
(
A
)
{\displaystyle \sum _{n=0}^{\infty }a_{n}=s\quad \operatorname {(A)} }
と記す[ 1] [ 2] 。また、このように {an } の級数を f (x ) の左極限 x → 1− で定義する総和法をアーベル総和法 と呼ぶ。
なお、f (x ) は部分和
s
n
=
∑
k
=
0
n
a
k
{\displaystyle s_{n}=\sum _{k=0}^{n}a_{k}}
によって、
f
(
x
)
=
(
1
−
x
)
∑
n
=
0
∞
s
n
x
n
{\displaystyle f(x)=(1-x)\sum _{n=0}^{\infty }s_{n}x^{n}}
とも表すことができる。したがって、f (x ) は部分和の列 {sn } に
∑
n
=
0
∞
(
1
−
x
)
x
n
=
(
1
−
x
)
1
1
−
x
=
1
{\displaystyle \sum _{n=0}^{\infty }(1-x)x^{n}=(1-x){\frac {1}{1-x}}=1}
を満たす因子 (1 − x )xn を乗じて、和を取っていることになる。
アーベル総和法はチェザロ総和法 より強い。すなわち、チェザロ総和可能な級数はアーベル総和可能である。より一般的に k >-1 について、(C , k ) -総和可能であれば、アーベル総和可能である。
a
n
=
(
−
1
)
n
(
n
+
1
)
(
n
=
0
,
1
,
2
,
⋯
)
{\displaystyle a_{n}=(-1)^{n}(n+1)\quad (n=0,1,2,\cdots )}
で定義される数列 {an } に対し、
∑
n
=
0
∞
a
n
=
1
−
2
+
3
−
4
+
⋯
{\displaystyle \sum _{n=0}^{\infty }{a_{n}}=1-2+3-4+\cdots }
は通常の意味では収束せず、またチェザロ総和法でも収束しない。一方でベキ級数
f
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
(
−
1
)
n
(
n
+
1
)
x
n
{\displaystyle f(x)=\sum _{n=0}^{\infty }(-1)^{n}(n+1)x^{n}}
は |x | < 1 で収束し、
f
(
x
)
=
1
(
1
+
x
)
2
{\displaystyle f(x)={\frac {1}{(1+x)^{2}}}}
となることから1/4にアーベル総和可能である[ 3] 。
{λn } を
0
≤
λ
0
<
λ
1
<
⋯
<
λ
n
<
⋯
{\displaystyle 0\leq \lambda _{0}<\lambda _{1}<\cdots <\lambda _{n}<\cdots }
を満たす単調増加な数列とする。ここで級数
f
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
a
n
exp
(
−
λ
n
x
)
{\displaystyle f(x)=\sum _{n=0}^{\infty }a_{n}\exp {(-\lambda _{n}x)}}
が任意の x > 0 について収束し、かつ左極限 x → +0 が存在し、
lim
x
→
+
0
f
(
x
)
=
s
{\displaystyle \lim _{x\to +0}f(x)=s}
と有限値 s になるとき、級数 ∑∞n =0 an は s に (A , λn ) -総和可能という[ 1] 。
特に λn = n の場合は、アーベル総和法に一致する。
アーベル総和法において、ベキ級数 f (x ) は部分和の列 {sn } によって、
f
(
x
)
=
(
1
−
x
)
∑
n
=
0
∞
s
n
x
n
=
∑
n
=
0
∞
s
n
x
n
∑
n
=
0
∞
x
n
=
∑
n
=
0
∞
p
n
s
n
x
n
∑
n
=
0
∞
p
n
x
n
(
p
n
=
1
)
{\displaystyle f(x)=(1-x)\sum _{n=0}^{\infty }s_{n}x^{n}={\frac {\sum _{n=0}^{\infty }s_{n}x^{n}}{\sum _{n=0}^{\infty }x^{n}}}={\frac {\sum _{n=0}^{\infty }p_{n}s_{n}x^{n}}{\sum _{n=0}^{\infty }p_{n}x^{n}}}\quad (p_{n}=1)}
と表すことができる。より一般に、数列 {pn } が
p
n
≥
0
,
∑
k
=
n
∞
p
k
>
0
{\displaystyle p_{n}\geq 0,\quad \sum _{k=n}^{\infty }p_{k}>0}
を満たし、{pn } によって定義されるベキ級数
p
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
p
n
x
n
{\displaystyle p(x)=\sum _{n=0}^{\infty }p_{n}x^{n}}
が収束半径 r > 0 を持つとする。このとき、
p
s
(
x
)
=
∑
n
=
0
∞
p
n
s
n
x
n
{\displaystyle p_{s}(x)=\sum _{n=0}^{\infty }p_{n}s_{n}x^{n}}
が 0 ≤ x < r で収束し、かつ
lim
x
→
r
−
p
s
(
x
)
p
(
x
)
=
s
{\displaystyle \lim _{x\to r-}{\frac {p_{s}(x)}{p(x)}}=s}
が成り立つとき、値 s に (J , pn ) -総和可能という[ 1] 。
アーベル総和法はフーリエ級数 の収束の議論に応用される[ 3] 。f (x ) を長さ L =b −a の有界区間 (a , b ) で定義されたリーマン積分可能な複素数値関数で、かつ f (a )=f (b ) を満たす周期関数とする。このとき、f (x ) は次の形のフーリエ級数展開を持つ。
f
(
x
)
∼
∑
n
=
−
∞
∞
f
n
^
e
2
n
π
i
x
/
L
{\displaystyle f(x)\sim \sum _{n=-\infty }^{\infty }{\hat {f_{n}}}e^{2n\pi ix/L}}
f
n
^
=
1
L
∫
a
b
f
(
x
)
e
−
2
n
π
i
x
/
L
d
x
{\displaystyle {\hat {f_{n}}}={\frac {1}{L}}\int _{a}^{b}f(x)e^{-2n\pi ix/L}dx}
第一式の右辺におけるフーリエ級数が意味を持つために収束性を考える必要がある。この級数はアーベル総和可能であり、f (x ) が連続となる点においてf (x ) に収束する。特に f (x ) が連続関数であれば、フーリエ級数はアーベル総和の意味で一様収束する。すなわち、
A
r
(
x
)
=
∑
n
=
−
∞
∞
r
|
n
|
f
n
^
e
2
n
π
i
x
/
L
{\displaystyle A_{r}(x)=\sum _{n=-\infty }^{\infty }r^{|n|}{\hat {f_{n}}}e^{2n\pi ix/L}}
を導入すると、この級数は 0 ≤ r <1 で収束し、かつ f (x ) が連続となる点で左極限 r → 1 − は f (x ) に一致する。この結果の議論はポアソン核
P
r
(
x
)
=
∑
n
=
−
∞
∞
r
|
n
|
e
2
n
π
i
x
/
L
{\displaystyle P_{r}(x)=\sum _{n=-\infty }^{\infty }r^{|n|}e^{2n\pi ix/L}}
の性質に基づく。 (a , b ) 上で可積分な関数g (x ) 、h (x ) に対して、畳み込み積分 を
g
∗
h
(
x
)
=
1
L
∫
a
b
g
(
y
)
h
(
x
−
y
)
d
y
{\displaystyle g*h(x)={\frac {1}{L}}\int _{a}^{b}g(y)h(x-y)dy}
で定義すると、
f
∗
P
r
(
x
)
=
A
r
(
x
)
{\displaystyle f*P_{r}(x)=A_{r}(x)}
であり、総和核 としてのポアソン核の性質から上述のアーベル総和に関する収束性が示される。