エボロクマブ(Evolocumab、開発コード:AMG-145)は脂質異常症の治療薬の一つである。モノクローナル抗体[2]、完全ヒト抗体であり、前駆蛋白変換酵素サブチリシン/ケキシン9(PCSK9)英語版を阻害するよう設計されている。

エボロクマブ?
モノクローナル抗体
種類 全長抗体
原料 ヒト
抗原 PCSK9
臨床データ
販売名 Repatha
法的規制
  • (Prescription only)
データベースID
CAS番号
1256937-27-5
ATCコード C10AX13 (WHO)
ChemSpider none
UNII LKC0U3A8NJ チェック
KEGG D10557  チェック
別名 AMG-145[1]
化学的データ
化学式C6242H9648N1668O1996S56
分子量141.8 kg/mol
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PCSK9は肝細胞表面に発現しているLDL受容体を分解し、肝臓がLDL-C(悪玉コレステロール)を血中から除去する能力を低下させる[3]。エボロクマブはこのPCSK9に結合して、PCSK9とLDL受容体との結合を阻害し、LDL受容体が分解されることを防ぎ、肝臓のLDL-C分解能を維持する。

承認状況

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米国では2014年8月に生物学的製剤承認申請書(BLA)が提出され[4]、2015年8月に既存の治療で効果不充分な患者についての使用が承認された[5]

欧州では2014年9月に医薬品販売承認申請(MAA)が提出され[6]、2015年7月に承認された[7][8]

日本では2015年3月に製造承認申請され[9]、2016年1月に承認された[10]

副作用

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治験での副作用の発現率は9.9%であり、その内訳は、糖尿病(1.4%)、注射部位反応(0.7%)、肝酵素異常(0.7%)、CK(CPK)上昇(0.7%)、頚動脈内膜中膜肥厚度増加(0.7%)、筋肉痛(0.7%)などであった[11]

作用機序

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エボロクマブはPCSK9に対するモノクローナル抗体である。PCSK9は肝臓で産生される蛋白質で、肝細胞表面のLDL受容体をリソソームに送り分解する役割を持つ。LDL受容体は血流のLDL-Cを捕捉して肝細胞内に取り込み代謝する。エボロクマブはPCSK9と結合してLDL受容体の分解を妨げ、結果的にLDL-Cの異化を促進する。

臨床試験

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2014年1月、第III相臨床試験GAUSS-2試験(Goal Achievement After Utilizing an Anti-PCSK9 Antibody in Statin Intolerant Subjects-2)の結果が発表された。スタチン不忍容の高コレステロール血症患者において、主要評価項目(12週時点のLDL-C値の減少率、10週・12週時点の平均LDL-C減少率)がいずれも目標を達成したとされた。エゼチミブと比較したLDL-Cの減少率は、第II相のGAUSS試験の結果と一致していた[12][13]

GAUSS-2試験では307名の患者(少なくとも2つのスタチンで筋骨格系の副作用により臨床量を投与できなかった患者)でエボロクマブの安全性、忍容性、有効性が評価された。患者は4群(エボロクマブ140mg隔週皮下注射+偽薬経口投与、エボロクマブ420mg/月皮下注射+偽薬経口投与、偽薬隔週皮下注射+エゼチミブ10mg経口投与、偽薬月1回皮下注射+エゼチミブ10mg経口投与)に無作為に割り付けられた。

安全性は各群間で概ね一致していた。多く見られた副作用は、頭痛(エボロクマブ群:7.8%、エゼチミブ群:8.8%)、筋肉痛(エボロクマブ群:7.8%、エゼチミブ群:17.6%)、極度の疼痛(エボロクマブ群:6.8%、エゼチミブ群:1.0%)、筋痙攣(エボロクマブ群:6.3%、エゼチミブ群:3.9%)であった。

心筋梗塞、虚血性脳梗塞、一過性脳虚血発作後の再発リスクを下げることを目的としてスタチンを用いたコレステロール低下療法が実施される。

第III相臨床試験FOURIER試験では、コレステロールをさらに50%減少させる事でこれらのリスクを低減できるか否かを検討する。試験は最長5年間実施される。同試験では、心筋梗塞、虚血性脳梗塞、一過性脳虚血発作の既往があり高用量スタチンを使用中の脂質異常症患者にエボロクマブを追加し、イベントの再発や他の心血管イベントの発症を評価する。

日本ではこれらとは別に第III相のYUKAWA-2試験(StudY of LDL-Cholesterol Reduction Using a Monoclonal PCSK9 Antibody in Japanese Patients With Advanced Cardiovascular Risk)が実施された。心血管系リスクの高い高コレステロール血症患者が対象となるスタチン併用試験で、主要評価項目である投与12週目までのベースラインからのLDL-C値の変化率等が統計学的に有意に増大(LDL-C減少)した[14]

出典

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  1. ^ Sheridan, C (2013). “Phase 3 data for PCSK9 inhibitor wows”. Nature Biotechnology 31 (12): 1057–8. doi:10.1038/nbt1213-1057. PMID 24316621. 
  2. ^ Statement On A Nonproprietary Name Adopted By The USAN Council - Evolocumab (PDF)
  3. ^ Weinreich, M; Frishman, W (2014). “Antihyperlipidemic therapies _targeting PCSK9.”. Cardiology in Review 3 (22). PMID 24407047. 
  4. ^ Amgen Submits Biologics License Application For Novel Investigational LDL Cholesterol-Lowering Medication Evolocumab To The FDA”. Amgen (2014年8月28日). 2015年4月6日閲覧。
  5. ^ FDA News Release (August 27, 2015). “FDA approves Repatha to treat certain patients with high cholesterol”. U.S. Food and Drug Administration. http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm460082.htm 30 August 2015閲覧。 
  6. ^ Amgen Submits Marketing Authorization Application For Novel Investigational LDL Cholesterol-Lowering Medication Evolocumab To The European Medicines Agency”. Amgen (2014年9月2日). 2015年4月6日閲覧。
  7. ^ European Commission Approves Amgen's New Cholesterol-Lowering Medication Repatha™ (evolocumab), The First PCSK9 Inhibitor To Be Approved In The World, For Treatment Of High Cholesterol”. AMGEN. 2016年5月27日閲覧。
  8. ^ 【米アムジェン】抗PCSK9抗体「エボロクマブ」、欧州当局から世界初承認”. 薬事日報 (2015年8月3日). 2015年8月6日閲覧。
  9. ^ LDLコレステロール低下薬evolocumab国内承認申請に関するお知らせ”. アステラス・アムジェン・バイオファーマ (2015年3月20日). 2015年4月6日閲覧。
  10. ^ 高コレステロール血症治療薬「レパーサ皮下注」PCSK9阻害薬として国内初の製造販売承認取得”. アステラス・アムジェン・バイオファーマ (2015年3月20日). 2016年4月3日閲覧。
  11. ^ レパーサ皮下注140mgシリンジ 添付文書” (2016年4月). 2016年11月4日閲覧。
  12. ^ Estel Grace Masangkay, "Amgen Phase III GAUSS-2 Trial of Evolocumab (AMG 145) Meets Co-Primary Endpoints Of LDL Cholesterol Reduction", Bioresearch Online (January 24 2014)
  13. ^ Pierson, Ransdell (17 March 2014). “Amgen drug meets goal for those with high genetic cholesterol”. Associated Press. http://news.yahoo.com/amgen-drug-meets-goal-those-high-genetic-cholesterol-141214266--finance.html 19 March 2014閲覧。 
  14. ^ アムジェン社のEVOLOCUMABスタチン併用下でプラセボと比較しLDLコレステロール(LDL-C)を67-76%低下 心血管系リスクの高い日本人高コレステロール血症患者を対象とした第III相試験結果の詳細データを発表”. アステラス・アムジェン・バイオファーマ (2015年3月14日). 2015年4月6日閲覧。
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