トルク族
トルク族(トルクぞく、ロシア語: Торк[1][2]) は、10世紀から13世紀にかけて、黒海北部のステップ地帯にいたテュルク系遊牧民の1部族である[3]。
歴史
編集トルク族はレートピシ(ルーシの年代記)に記される部族の1つである。古くは985年、トルク族の傭兵はキエフ大公ウラジーミルによる、ブルガール族、ハザール族に対する遠征に参加している。その後東方のポロヴェツ族に圧迫されたトルク族は、11世紀の初めに遊牧生活を営みながらドニエプル川流域へと移動し、結果ルーシ領と接することとなった。それに対し、キエフ大公フセヴォロドは1055年にルーシ領(ペレヤスラヴリ公国領)の防衛のためにトルク族を攻めた。続く1060年にはイジャスラフ、スヴャトスラフ、フセヴォロド、フセスラフらの連合軍がトルク族を攻め、ドン川周辺へと追いやっている。ただし12世紀になると、トルク族は再びドン川周辺から到来し、ルーシ領と接している。1116年、トルク族とペチェネグ族は2日間にわたってポロヴェツ族と戦い、ウラジーミル・モノマフ(当時ペレヤスラヴリ公)の元へと逃れてきた。しかし1121年に、モノマフが遊牧民ベレンデイ族をルーシから追放すると、ルーシ領に残存していたトルク族とペチェネグ族は自ら去った[4]。
一方、トルク族の一部は11世紀からローシ川沿岸(ポロシエ)の地も占拠しており、これらのトルク族はルーシの公に従属し、都市トルチェスクを中心として半定住化した。また、ドニエプル川左岸には別のトルク族の集団が定住しており、かれらはペレヤスラヴリ公国による支配を承認していた。12世紀の史料によれば、かれらは都市バルチ(現ウクライナ・バルィシィウカ(ru))付近の地に居住していた。これらポロシエやペレヤスラヴリ公国に定住したトルク族は、ペチェネグ族、ベレンデイ族らの他のルーシに従属する遊牧民の部族と併せて、チョールヌィ・クロブキという名称で呼ばれた。トルク族を含むチョールヌィ・クロブキは、ポロヴェツ族の侵入に対抗しきれずにルーシに庇護を求め、かつ1つに集団化したものである[5]。かれらは騎馬傭兵部隊となり[6]、ポロヴェツ族の侵入に対する国境(ルーシ諸公国の国境)の守備軍や、キエフ大公の遠征軍に参加した。さらに別の一部のトルク族にはドナウ川を越え、東ローマ帝国民となったものがある。
モンゴルのルーシ侵攻に際し、1240年にポロシエは破壊にさらされた[7]。残ったトルク族の居住区は、スラヴ系住人の居住区と同化した。ステップ地帯に住んでいたトルク族は、後のウクライナ人の一部に含まれたとされている[8]。
地名
編集トルク族の名は、現ウクライナの地名として数多く残されている。河川としてはトルチ川(uk)、行政区としてはトルキ(uk)、トレツィ(uk)、トルキウ(uk)等である。
出典
編集- ^ 田中陽兒『世界歴史大系 ロシア史 1 -9世紀~17世紀-』p96等
- ^ 中村喜和訳『モノマフ公の庭訓』// 『ロシア中世物語集』p116
- ^ 中村喜和訳『ロシア中世物語集』p358
- ^ 中澤敦夫, 藤田英実香「『イパーチイ年代記』翻訳と注釈(2) : 『キエフ年代記集成』(1118~1146年)」『富山大学人文学部紀要』第62巻、富山大学人文学部、2015年2月、287頁、CRID 1390290699783145728、doi:10.15099/00000305、hdl:10110/13459、ISSN 03865975。
- ^ 田中陽兒『世界歴史大系 ロシア史 1 -9世紀~17世紀-』p163
- ^ 田中陽兒『世界歴史大系 ロシア史 1 -9世紀~17世紀-』p56
- ^ 田中陽兒『世界歴史大系 ロシア史 1 -9世紀~17世紀-』p145
- ^ Гумилёв Л. Н. От Руси до России. — М.: Айрис-пресс, 2011. — С. 250.
参考文献
編集- Торки // Энциклопедический словарь Брокгауза и Ефрона(ブロックハウス・エフロン百科事典)— СПб., 1890—1907.
- Мавродина Р. М. Киевская Русь и кочевники (печенеги, торки, половцы): Историографический очерк / Отв. ред. В. М. Панеях. Ленингр. отд-ние Института истории СССР АН СССР.. — Л.: Наука, Ленингр. отд-ние, 1983. — 88 с. — 12 500 экз. (обл.)
- Барсов Н. П. Очерки русской исторической географии. — 1873.
- Голубовский П. В. Печенеги, торки и половцы до нашествия татар. — К., 1884.
- 田中陽兒、倉持俊一、和田春樹編『世界歴史大系 ロシア史 1 -9世紀~17世紀-』山川出版社、1995年
- 中村喜和訳 『ロシア中世物語集』、筑摩書房、1985年
関連項目
編集- クントゥヴディ - 12世紀後半、トルク族出身の軍司令官