ヤマイグチ(山猪口[1]学名: Leccinum scabrum)は、イグチ科ヤマイグチ属の中型から大型のキノコ菌類)である。ヨーロッパには広く分布し、アジアヒマラヤ山脈、その他北半球に分布する。カバノキ菌根にのみ生じ、6月から10月に子実体をつける[2][3]。恐らく持ち込まれたものが帰化したオーストラリアニュージーランドでも増え始めている。食用キノコとして利用されるが、生食すると中毒を起こす。別名、ハイマツイグチ、モトブトイグチともよばれている[4]

ヤマイグチ
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : ハラタケ亜門 Agaricomycotina
: ハラタケ綱 Agaricomycetes
亜綱 : ハラタケ亜綱 Agaricomycetidae
: イグチ目 Boletales
: イグチ科 Boletaceae
: ヤマイグチ属 Leccinum
: ヤマイグチ L. scabrum
学名
Leccinum scabrum (Bull.) Gray (1821)
シノニム
  • Boletus scaber Bull. (1783)
  • Krombholzia scabra (Bull.) P.Karst. (1881)
  • Leccinum avellaneum
  • Leccinum rigidipes
  • Leccinum roseofractum
  • Leccinum scabrum var. avellaneum

分布・生態

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様々な年代のヤマイグチ

ヨーロッパ原産であるが、世界中の様々な場所で帰化し、主に都市部で見られる[5]。夏から秋にかけて、シラカバなどカバノキ科カバノキ属落葉広葉樹雑木林の樹下に単生から群生する[6][4]。日本でも各地に分布する[4]ニュージーランドでは、ヨーロッパシラカンバだけで見られる[7]

形態

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子実体からなる。傘の幅は、5 - 20センチメートル (cm) である[6]。形は、当初は半球形であるが、生長すると後にやや扁平の丸山形やまんじゅう形になる[6]。傘の表面は灰褐色、暗褐色または淡黄褐色で、通常、縁の色は薄い[6][1][5]。傘は平滑・無毛のややフェルト状で乾燥しており、湿ると粘性を帯びる[6][4][5]

傘下面の管孔は柄に対して離生か上生する[6]。管孔と孔口は若いうちは白く[5]、やがて淡い黄色になり[6]、のちに帯紅灰褐色から黄土褐色になる[4]。古いものでは、傘の孔口は膨らんでおり、柄の周りのものは強くくぼんでいる。孔口の覆いは容易に外れる。

は長さ5 - 15 cm、幅1 - 3.5 cm、灰白色の地に褐色から黒色の細かいささくれ状の線に覆われ、下方に少し太まるものが多く、上に向かって細くなっている[6][5]。根元に青色の染みはない[4]。菌糸体は白い。

は白く、日光にさらすと黒くなることがある[5]。肉を傷つけてると、帯紅赤褐色に変色するか[4]、または変色しない[1]。若い個体では比較的柔らかいが、特に雨季には、すぐにスポンジ状になり、水を貯える。調理すると、肉は黒くなる。

ヤマイグチは、カリフォルニア州等、本来自生する範囲の外の鑑賞用のカバノキの木の根元で発見された[8]

利用

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イグチ科の食用に利用されているキノコの中でも、ヤマイグチは味のよいキノコの一つとして定評がある[6]

幼菌・老菌ともにスポンジ状の管孔部分は食感が悪いので取り除いてから調理するとよい[6]。傘・柄も食べられ、湯がいて下処理をしてから、鉄板焼きすき焼きバター炒め炒め物)、天ぷら汁物鍋物フライなどにするのが向いている[6][9]フィンランドロシアでは、食用としてよく収穫される[10]

2009年以降にアメリカ合衆国で出されたいくつかの報告によると、摂取する際に注意を要するとされている[11][12]。 調理の際はしっかり火を通さないと中毒症状を引き起こすといわれている[1][4]。毒成分については不明とされるが、その他の香り成分として、1-オクテン-3-オール2-オクテノールなどが検出されている[4]

類似の種

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これまで数種の近縁種がヤマイグチとして扱われてきたとみられており、近似種との区別には顕微鏡による観察が不可欠だといわれている[4]ヤマイグチ属の他のいくつかの種もカバノキの菌根で見られ、真菌学者でも混同することがある。アオネノヤマイグチは青い柄を持つ。L. oxydabileは柔らかく桃色の肉で、傘の風合いも異なる。L. melaneumはより暗い色で、傘や柄の表皮の下の色は黄色っぽい。L. holopusは全ての部分がより淡い白っぽい色である。

出典

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  1. ^ a b c d 吹春俊光 2010, p. 67.
  2. ^ Fergus, C. Leonard & Charles (2003). Common Edible & Poisonous Mushrooms of the Northeast. Mechanicsburg, PA: Stackpole Books. pp. 51–52. ISBN 0-8117-2641-X. https://archive.org/details/commonediblepois00ferg 
  3. ^ Arora D. (1986). Mushrooms Demystified: A Comprehensive Guide to the Fleshy Fungi. Berkeley, California: Ten Speed Press. pp. 541–542. ISBN 0-89815-169-4. https://archive.org/details/mushroomsdemysti00aror_0/page/541 
  4. ^ a b c d e f g h i j 長沢栄史 監修 2009, p. 186.
  5. ^ a b c d e f Trudell, Steve; Ammirati, Joe (2009). Mushrooms of the Pacific Northwest. Timber Press Field Guides. Portland, OR: Timber Press. pp. 227-228. ISBN 978-0-88192-935-5. https://books.google.com/books?id=WevHvt6Tr8kC 
  6. ^ a b c d e f g h i j k 瀬畑雄三 監修 2006, p. 147.
  7. ^ McNabb RFR. (1968). “The Boletaceae of New Zealand”. New Zealand Journal of Botany 6 (2): 137–76 (see p. 169). doi:10.1080/0028825X.1968.10429056.   
  8. ^ Leccinum scabrum”. California Fungi. 2009年10月18日閲覧。
  9. ^ Phillips, Roger (2010). Mushrooms and Other Fungi of North America. Buffalo, NY: Firefly Books. p. 276. ISBN 978-1-55407-651-2 
  10. ^ Ohenoja, Esteri; Koistinen, Riitta (1984). “Fruit body production of larger fungi in Finland. 2: Edible fungi in northern Finland 1976–1978”. Annales Botanici Fennici 21 (4): 357–66. JSTOR 23726151. 
  11. ^ Bakaitis, Bill. “Diagnosis at a Distance”. 2011年11月28日閲覧。
  12. ^ Land, Leslie. “Wild Mushroom Warning: The Scaber Stalks (Leccinum species) May No Longer Be Considered Safe”. 2009年7月18日閲覧。

参考文献

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関連文献

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  • Kallenbach: Die Röhrlinge (Boletaceae), Leipzig, Klinkhardt, (1940–42)
  • Gerhardt, Ewald: Pilze. Band 2: Röhrlinge, Porlinge, Bauchpilze, Schlauchpilze und andere, (Spektrum der Natur BLV Intensiv), (1985)

外部リンク

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  NODES
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