吸盤
吸盤(きゅうばん)とは、ゴムや合成樹脂などの可撓性を利用して平滑面に吸着して内部を真空に近い状態にし気圧や水圧などの圧力の差を利用して物に吸着する器具、部品[1]。吸着盤ともいう[1]。接着剤などと異なり一時的な接着を目的とすることが多い。また、吸着するための動物の器官。
器具・部品
編集器具・部品の場合、可撓性のあるゴムやプラスチックでできており皿のような形状をしている。対象物に皿を伏せるような向きで押しつけ、本体をくぼませることで吸盤と対象物との間の空気が抜ける一方、吸盤の弾性により元の形状に戻ろうとする。そのため内部は気圧の低い状態(理想的には真空)になり、外の大気圧との差が生じて皿が対象物に張り付くことになる。弾性に頼らずにレバーなどで動作させる方式のものもある。水中では水圧が気圧と同様な役割を持つので、水中でも作用する。
空気漏れを防ぐために吸盤自身の吸着面と対象物は平滑である必要がある。対象物で金属面やプラスチック、タイルの面はその点で吸盤向けである。吸着力は基本的に吸盤の面積に比例する。
垂直面に吸盤を付着させて物を吊り下げる場合、あまり大きな荷重には耐えられないものの、釘やピン、あるいは接着剤と異なり、後を汚さないこと、何度でも着け外しが簡単なことが利点である。ただし、接着にあたり接着面及び吸盤に付着する油脂やゴミはその接着力の大きな妨げになるため、事前に脱脂をすることで接着強度を高めることができる。また、自動車のフロントガラスなどに使用する場合、その吸盤の形状から収れん火災を起こす可能性もある。
動物
編集動物ではタコが一番目立つ多数の吸盤を持つものである。その形状は人工のものとよく似ており、筋力により吸着動作を行う。ハゼの仲間では、腹びれが吸盤となっている。口を吸盤にしているものには、ヤツメウナギ・アルジイーター・ヒル・吸虫などがある。総じて動物の形成する吸盤は、水中で働くものが多い。これは、自然界ではガラス面のようになめらかな表面は存在しないので、どうしても水や粘液が間に入ってその境目を埋める必要があるためと推測される。空中の濡れた面であれば、さほど吸盤の形をしていなくても、ぬれた粘液面だけで吸着することもある。腹足類などが幅広い足で基盤に吸着するのも吸盤の原理である。
ヤモリ科の樹上や壁面に生息する構成種等の指先にある構造もかつては「吸盤」と言われていたが、現在では微小な突起構造によるファンデルワールス力を利用していることが明らかになった。
吸盤をもつ動物の例
編集- アマガエル科
- アオガエル科
- コバンザメ
- ハゼ
- ダンゴウオ
- アルジイーター
- ロリカリア
- プレコストムス
- ヤツメウナギ
- ナマコ・ウニ(管足)
- タコ
- ヒル
- ヒルミミズ
- 吸虫
- 吸口虫
- チョウ (甲殻類)
- イソギンチャク(足盤)
イカの吸盤はやや原理が異なる。
植物
編集ツタのつるの先端にある、壁面や他の物体に付着するための構造体も広く一般的に「吸盤」と呼ばれる。しかし、ツタの吸盤は上記のものとは異なり圧力差を利用したものではなく、吸盤の付着面から基盤の凹凸に対し突起状の組織を進出させつつ、接着剤様の分泌物によって隙間を満たすことによって接着している[2][3]。このため、ツタの吸盤は一時的というより恒久的な接着に近く、平滑な面よりも凹凸のある面に対しての方が強く付着する。
出典
編集- ^ a b 意匠分類定義カード(M3) 特許庁
- ^ Kim, InSun (2014). “Structural Changes of Adhesive Discs during Attachment of Boston Ivy”. Appl. Microsc. 44 (4): 111-116. doi:10.9729/AM.2014.44.4.111.
- ^ 冲中, 健; 山内, 啓治; 朴, 容珍 (1991). “種々の粗さの壁面に対するナツヅタ付着盤の付着”. 千葉大学園芸報 (Tech. Bull. Fac. Hort. Chiba Univ.) 44: 245-254.