呪い
呪い(のろい、詛い)は、人または霊が、物理的手段によらず精神的あるいは霊的な手段で、悪意をもって他の人や社会全般に対し災厄や不幸をもたらさしめんとする行為をいう。
特に人が人を呪い殺すために行うものは、古来日本では呪詛(じゅそ、ずそ、しゅそ)、あるいは対象を「悪」と見做して滅するという建前の上で調伏(ちょうぶく、じょうぶく)と言われることもあった[1]。
概要
編集「呪う」という言葉は「祝詞(のりと)」と語源的には同じで、「宣(の)る」に反復・継続の助動詞「ふ」が接続したものであり、古代の言霊信仰に由来するものと思われる。
日本では既に死んだ人・動物や神霊がなす呪いを特に「祟り」と呼び分けることが多い。呪術(まじない)とも関係が深いが、呪術という言葉は意図および結果の善悪にかかわらず用いられるのに対し、呪いという言葉はもっぱら悪い意味で用いられる。
呪いは生きた人間による場合には、呪文、祈祷、その他の言語的、呪術的または宗教的な行為によって行われるとされることが多い。具体的には宗教・文化的背景によって様々な違いがあり、神・悪魔その他の強力な霊の力を借りてなされると考えられたり、あるいは自己の霊能力によると考えられたりする。日本では、丑の刻参りが呪術的な行為によるものの代表的なものである[2]。
また神話・伝説・物語などにおいては、登場人物(特に王子・王女など)が魔法使いなどによって呪いをかけられ、動物に変身したり(白鳥の湖)、眠りに落ちたり(眠れる森の美女)する例が多く見られる。
日本における呪詛と法律・国家
編集現代日本の法体系は超常現象を前提としていないため、呪詛それ自体は不能犯であり、処罰できない。ただし、上記の丑の刻参りにも使われてきた藁人形を見せつけるなどして、相手に呪っていることを知らせて、脅迫罪やストーカー行為等の規制等に関する法律違反の容疑で摘発された事例がある。呪詛の効果を肯定する立場では逆に、「他人に知られると効果がない」と信じられてきた[3]。
古代では、呪詛に該当する「蠱毒厭魅」「巫蟲」は、『養老律令』賊盗律などに処罰対象と規定された禁止・違法行為であった。井上内親王(光仁天皇の皇后)のように、他人や国家を呪ったとして罰せられたり、失脚させられたりした貴人や僧侶、呪術者もいる。一方で朝廷は、承平天慶の乱、元寇といった反乱や侵略に対しては、鎮定のための調伏を有力社寺に命じている。
よく知られた例
編集多くの人に呪いとして理解されていたり語られたりしている例をいくつか挙げる。史実ではないと思われる神話や伝説、物語、都市伝説等における呪いを含む。
そうした伝承や古典文学を含めて、呪いは現代に至るまで、怪談や怪奇・ホラー系創作のテーマや、超常現象に見せかけたミステリのトリックの材料などとして、繰り返し登場し続けている。
その他 1900年代頃からのもの
近代のスポーツにまつわるジンクス
「呪い」の文字を含む学術用語
呪いに関することわざ
なかば揶揄めいて呪いとされるフレーズ
- ベストマザー賞の呪い
- 私の履歴書#私の履歴書の呪い
- 島耕作の呪い
- スケバン刑事の呪い
- リング女優の呪い
実際に呪いの言葉を発したケース
呪い返し
編集日本では、古来から「呪い」に対処する「呪い返し」の手法が多数編み出されてきた。魔除け、縁起担ぎ、厄除け、などの様々な手法がある。さらに、下記の処方もある[4]。
出典・注釈
編集- ^ 「呪い」にマジナイとノロイの別があるように、「調伏」にもその原義である仏教用語と、転じて対象を「悪」とみなすことで呪詛と同義となった用語があり、「呪詛調伏」(じゅそちょうぶく)と並べられた用法がみられる。「調伏」(デジタル大辞泉)、「調伏」(大辞林 第三版)
- ^ 現代においてはこれを代行すると称する業者も存在する。『朝日新聞』2009年5月4日、東京版朝刊、26頁。
- ^ 【ニュースQ3】見せてはいけない…「わら人形」で脅迫容疑『朝日新聞』朝刊2017年1月31日(社会面)
- ^ 『マンガ神道入門〜日本の歴史に生きる八百万の神々〜』(白取春彦著、神保郁夫監修、サンマーク出版)
- ^ 鈴木一馨『陰陽道―呪術と鬼神の世界』講談社選書メチエ、2002年 ISBN 978-4-06-258244-5
関連項目
編集- アナテマ - キリスト教では破門のこと、もしくは神に見放され呪われたものになることを意味する。
- カースタブレット ‐ 窃盗犯などを呪うためのタブレット。
- イギリスの温泉地バースで発見された女神Sulisへの訴えとされる130枚以上のバース・カースタブレットは、2014年にユネスコによって世界の記憶の認定を受けた。
- ブックカース - 本を盗んだ相手を呪う文。
- 蠱毒
- 魔術
- 「呪い返し」の戦い方 - 呪い返し師—塩子誕生