日本国憲法第96条
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
条文
編集沿革
編集大日本帝国憲法
編集日本国憲法はあくまで、大日本帝国憲法第73条の適用による同憲法の改正を経た新憲法として公布・施行された。 東京法律研究会 p.14-15
憲法改正要綱
編集「憲法改正要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 三十一
- 両議院ノ議員ハ各々其ノ院ノ総員二分ノ一以上ノ賛成ヲ得テ憲法改正ノ議案ヲ発議スルコトヲ得ル旨ノ規定ヲ設クルコト
- 三十二
- 天皇ハ帝国議会ノ議決シタル憲法改正ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命スル旨ノ規定ヲ設クルコト
- 三十三
- 憲法及皇室典範変更ノ制限ニ関スル第七十五条ノ規定ヲ削除スルコト
- 三十四
- 以上憲法改正ノ各規定ノ施行ニ関シ必要ナル規定ヲ設クルコト
GHQ草案
編集「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
日本語
編集
- 第八十九条
- 此ノ憲法ノ改正ハ議員全員ノ三分ノ二ノ賛成ヲ以テ国会[1]之ヲ発議シ人民ニ提出シテ承認ヲ求ムヘシ人民ノ承認ハ国会ノ指定スル選挙ニ於テ賛成投票ノ多数決ヲ以テ之ヲ為スヘシ
- 右ノ承認ヲ経タル改正ハ直ニ此ノ憲法ノ要素トシテ人民ノ名ニ於テ皇帝之ヲ公布スヘシ
英語
編集
- Article LXXXIX.
- Amendments to this Constitution shall be initiated by the Diet, through a concurring vote of two-thirds of all its members, and shall thereupon be submitted to the people for ratification, which shall require the affirmative vote of a majority of all votes cast thereon at such election as the Diet shall specify.
- Amendments when so ratified shall immediately be proclaimed by the Emperor, in the name of the People, as an integral part of this Constitution.
憲法改正草案要綱
編集「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第九十二
- 此ノ憲法ノ改正ハ各議院ノ総議員三分ノ二以上ノ賛成ヲ以テ国会之ヲ発議シ国民ニ提案シテ其ノ承認ヲ経ベキコトトシ国民ノ承認ハ国会ノ定ムル所ニ依リ行ハルル投票ニ於テ其ノ多数ノ賛成アルコトヲ要スルコト
- 憲法改正ニ付前項ノ承認ヲ経タルトキハ天皇ハ国民ノ名ニ於テ憲法ノ一部ヲ成スモノトシテ直ニ之ヲ公布スベキコト
憲法改正草案
編集「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第九十二条
- この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
- 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
解説
編集日本国憲法の改正手続に関して必要な手続を規定している。通常の法律においては、当該法律の改正方法について論じているものはなく、法律の通常の制定手続と同様の手続をもって改正ないしは廃止がなされる。日本国憲法は、通常の法律の制定に必要な要件よりもその改正に必要な要件を加重しており、いわゆる硬性憲法である。
大まかに憲法改正に必要な手続は、
とされている。
具体的に憲法改正に必要な手続については、法令の規定に委ねられていると解され、国会法第68条の2〜6と2007年(平成19年)に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)において詳細が規定されている。
日本国憲法は制定以来、2022年現在一度も改正されておらず、この時点で最も長期間に渡り憲法を修正しない国である。
なお、日本国憲法は、大日本帝国憲法の改正手続を踏まえ、上諭に見られるように天皇の名において公布されているが、日本国憲法の改正手続による場合には、国民の名において、天皇が公布するものとされている。
発議権が内閣も有するかについては争いがある。「国会の発議」は発案権者が国会議員に限定されることを当然には意味しないこと、内閣の発議権を認めても国会審議の自主性は損なわれないこと、議院内閣制の内閣と議会の協同関係から考えて認めても不思議ではないことなどから肯定する説がある[2]。政府見解も内閣法第5条の「内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し」の「その他の議案」に憲法改正の議案が含まれると解釈している[3]。一方、戒能通孝の公述によれば、発議出来るのは国会のみであり、内閣が憲法改正に意見することも許容されないとする[4]。もっとも内閣は、議員たる資格を有する国務大臣その他の議員を通じて原案を提出できるので、議論の実益は乏しい[5]。
「国民投票による過半数」の意義
編集日本国憲法の改正手続に関する法律の審議過程で、日本国憲法96条の「国民投票による過半数の賛成」について、「有権者数の過半数の賛成」か「総投票数の過半数の賛成」か「有効投票数の過半数の賛成」か、どれを指すのか議論があった。この点、現行憲法制定時の「憲法改正草案要綱」は、日本語原文では「投票ニ於テ其ノ多数ノ賛成」と明確でないものの、その英訳文では「the affirmative vote of a majority of all votes」(総投票の過半数の賛成)と、明確に示されていた[6]。また、現行憲法の英訳文も同じく「the affirmative vote of a majority of all votes」(総投票の過半数の賛成)としている[7]。
結局、法律では、「有効投票数の過半数」の賛成をもって改正が承認されると定められた(法126条1項・98条2項参照)。[注 1]
修正条項論
編集「この憲法と一体を成すものとして」とは、改正条項が「日本国憲法と同じ基本原理の上にたち、同じ形式的効力をもつもの」であることを示すと解されている[8]。アメリカ合衆国憲法と同じ増補の方式(改正後も原条文はそのままにして、修正第1条・修正第2条…と修正条項を増補する方式)を要求する趣旨だという特別の意味は、含まれていないと解される。また、全部改正についても、憲法改正権の限界を逸脱するものでない限り、必ずしも排除されているわけではないと解される。
比較
編集各国憲法の改正に関する条項は、以下の通り[9]。
憲 法 | 内 容 |
---|---|
アメリカ合衆国憲法 |
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イタリア共和国憲法 |
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ドイツ連邦共和国基本法 |
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フランスの旗 フランス第五共和国憲法 |
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スイス連邦憲法 |
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ロシア連邦憲法 |
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中華人民共和国憲法 |
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大韓民国憲法 |
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関連条文
編集脚注
編集注釈
編集- ^ 日本国憲法の改正手続に関する法律では、126条1項に「国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が第九十八条第二項に規定する投票総数の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について日本国憲法第九十六条第一項の国民の承認があったものとする。」と定め、98条2項では「投票総数(憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数をいう)」と定めている。同条項の「賛成の投票の数」及び「反対の投票の数」には、賛否が明確でない票や余事記載のある票など無効投票は含まれないため、有効投票を意味すると解される。したがって、法は「国民投票による過半数の賛成」を「有効投票数の過半数の賛成」に定めたことになる。
- ^ 1808年以前においては、憲法修正によって黒人奴隷の輸入を禁止し、また奴隷に対して過大な人口割を課することはできない、という趣旨を確認したものである。
出典
編集- ^ GHQ草案における「国会」は、一院制である。「国会ハ三百人ヨリ少カラス五百人ヲ超エサル選挙セラレタル議員ヨリ成ル単一ノ院ヲ以テ構成ス」(GHQ草案41条)。
- ^ 芦部信喜〔高橋和之補訂〕『憲法〔第5版〕』382頁(岩波書店,2011年)ISBN 978-4000227810
- ^ 1956年2月23日、第24回国会の衆議院内閣委員会における内閣総理大臣答弁。
- ^ 1956年3月16日、第24回国会の衆議院内閣委員会、憲法調査会法案公聴会にて。保阪正康『50年前の憲法大論争』講談社現代新書より
- ^ 芦部信喜〔高橋和之補訂〕『憲法〔第5版〕』383頁(岩波書店,2011年)ISBN 978-4000227810
- ^ 「憲法改正草案要綱」 の発表、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- ^ The Constitution of Japan、首相官邸。
- ^ 芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第四版』、岩波書店、2007年。
- ^ 以下いずれも、初宿正典; 辻村みよ子編 (2010年). 新解説 世界憲法集 第2版. 三省堂. ISBN 978-4-385-31303-0
- ^ 第1項第2文は、1954年3月26日の第4回改正法律で付加。
- ^ 「人間の尊厳、人権、基本権の拘束力」に関する条項。
- ^ 「連邦国家、権力分立、社会的連邦国家、抵抗権」に関する条項。
- ^ 1990年8月31日調印の統一条約第4条により変更。