こぎつね座
こぎつね座(こぎつねざ、Vulpecula)は、現代の88星座の1つ。17世紀後半に考案された新しい星座で、キツネがモチーフとされている[1][3]。こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイルからなる「夏の大三角」に囲まれるように位置しているが、4等星より明るい星がなく目立たない星座である。
Vulpecula | |
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属格形 | Vulpeculae |
略符 | Vul |
発音 | 発音: [vʌlˈpɛkjʊlə]、属格:/vʌlˈpɛkjʊliː/ |
象徴 | キツネ |
概略位置:赤経 | 18h 57m 06.5s - 21h 30m 38.9s[1] |
概略位置:赤緯 | +19.40° - +29.49°[1] |
広さ | 268平方度[2] (55位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 33 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
最輝星 | α Vul(4.45等) |
メシエ天体数 | 1 |
隣接する星座 |
はくちょう座 こと座 ヘルクレス座 や座 いるか座 ペガスス座 |
主な天体
編集この星座には4等より明るい星はないが、亜鈴状星雲やコートハンガーなどアマチュア天文家の観測対象となる星雲や星団がある。
恒星
編集2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって3個の恒星に固有名が認証されている[4]。
- α星:見かけの明るさ4.45等の赤色巨星で4等星[5]。こぎつね座で最も明るく見える恒星。8番星と見かけの二重星を成している。固有名の「アンセル[6](Anser[4])」は、ラテン語で「ガチョウ」という意味である。
- V星:おうし座RV型変光星。
- CK星:1670年に観測された新星。高輝度赤色新星であったと考えられている。
星団・星雲・銀河
編集- コリンダー399:や座との境界近くに位置する散開星団。洋服掛けのような形に星が並んでいることから「コートハンガー (Coathanger[7])」や「AL SUFI's Cluster」「Brocchi's Cluster」の別名でも知られる[7]。肉眼でも見ることができる。
- NGC 6885:散開星団。
- M27:「亜鈴状星雲」や「ダンベル星雲」の別名で知られる惑星状星雲。双眼鏡でも満月の4分の1の大きさの楕円形に見える。その名の通りの鉄アレイ状に見るには、大口径の望遠鏡が必要である。
その他
編集- PSR B1919+21:1967年に史上初めて発見されたパルサー。アントニー・ヒューイッシュの指導の下でクエーサーを観測していたジョスリン・ベルによって偶然発見された[8]。
由来と歴史
編集この星座は、17世紀末にポーランドの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスによって考案された[3]。初出は、ヘヴェリウスの死後の1690年に妻Catherina Elisabetha Koopman Hevelius によって刊行された著書『Prodromus Astronomiae』に収められた星図『Firmamentum Sobiescianum』と1687年の日付が残る星表『Catalogus Stellarum』である。ただし、『Firmamentum Sobiescianum』ではAnser(ガチョウ)と Vulpecula(キツネ)という2つの独立した星座として扱われた[3][9]が、『Catalogus Stellarum』では Vulpecula cum Ansere(ガチョウをくわえたキツネ)という1つの星座とされるなど、星座とその名称に混乱が見られた[3]。
1729年に刊行されたジョン・フラムスティードの星図『Atlas Coelestis』では Vulpec & Anser とされた[3]。1845年にフランシス・ベイリーが刊行した『British Association Catalogue』では、最輝星にギリシア文字のαが振られ、星座名は短縮されて Vulpecula とされた[3]。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Vulpecula、略称は Vul と正式に定められた[10]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
呼称と方言
編集日本では、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳した『洛氏天文学』が刊行された際に「ウェルペキュラエトアンセル」と紹介された[11]。その後明治末期には「小狐」という訳語が充てられていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる[12]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「小狐(こきつね)」として引き継がれ[13]、1943年(昭和18年)刊行の第19冊まで継続して使われた[14]。1944年(昭和19年)に天文学用語が改訂されると、その際に読みが「こぎつね」と改められた[15]。そして、戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[16]とした際に、Vulpecula の日本語の学名は「こぎつね」と定まり[17]、これ以降は「こぎつね」という学名が継続して用いられている。
1928年(昭和3年)に天文同好会[注 1]の編集により新光社から刊行された『天文年鑑』の第1号では「きつね」という呼称が使われた[18]。天文年鑑の編集に携わった天文同好会の山本一清は「最も妥当だと信ずる星座の名の一覧表」でも Vulpecula に対応する訳名を「きつね」としている[19]。また、1931年(昭和6年)3月に刊行された『天文年鑑』第4号では、星座名は Vulpecula cum Ansere、訳名は「小狐と鵞鳥」とされた[20]。以降、天文年鑑ではこの星座名と訳名が継続して用いられた[21]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c “The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月16日閲覧。
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ a b c d e f Ridpath, Ian. “Vulpecula”. Star Tales. 2023年1月17日閲覧。
- ^ a b Mamajek, Eric E. (2022年4月4日). “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合. 2023年1月17日閲覧。
- ^ "alp Vul". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月17日閲覧。
- ^ a b "Cl Collinder 399". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月17日閲覧。
- ^ Hewish, A.; Bell, S. J.; Pilkington, J. D. H.; Scott, P. F.; Collins, R. A. (1968). “Observation of a Rapidly Pulsating Radio Source”. Nature (Springer Science and Business Media LLC) 217 (5130): 709-713. Bibcode: 1968Natur.217..709H. doi:10.1038/217709a0. ISSN 0028-0836.
- ^ Ridpath, Ian. “Hevelius's depiction of Vulpecula”. Star Tales. 2023年1月17日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月16日閲覧。
- ^ ジェー、ノルマン、ロックヤー 著、木村一歩、内田正雄 編『洛氏天文学 上冊』文部省、1879年3月、59頁 。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊』丸善、1925年、61-64頁 。
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第19冊』丸善、1943年、B22-B23頁 。
- ^ 学術研究会議 編「星座名」『天文術語集』1944年1月、10頁。doi:10.11501/1124236 。
- ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2。
- ^ 「星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、158頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』1号、新光社、1928年4月28日、4頁。doi:10.11501/1138361 。
- ^ 山本一清「天文用語に關する私見と主張 (1)」『天界』第14巻第162号、東亜天文学会、1934年3月、212-214頁、doi:10.11501/3219877、ISSN 0287-6906。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、8頁。doi:10.11501/1138410 。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、8頁。doi:10.11501/1114748 。