ひまし油(ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油、英語: Castor oil)は、トウダイグサ科トウゴマ種子から採取する植物油の一種。

ひまし油

脂肪酸グリセリンエステル結合したもので、脂肪酸の約90%がリシノール酸(リシノレイン酸、Ricinoleic acid)である[1]。リシノール酸(リシノレイン酸)は1分子に水酸基と二重結合を持ち、化学的な反応性に富むことから様々な工業用途で用いられる[1]。一方でリシノール酸(リシノレイン酸)は人体内では下痢を起こすため食用に適さず、医療目的で下剤などに使用される[2]

用途

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工業用途

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戦時中のポスター(1940年1945年

工業用途ではそのままで塗料の原料、ゴム用助剤、潤滑油、ブレーキ液などとして用いられる[2][3]。また、化学的な反応性に富み[1]、熱分解、アルカリ性分解、酸化重合(吹込ひまし油)、水素添加(ひまし硬化油など)、ウレタン反応、ケン化分解、脱水反応、硫酸化(ロート油)、エステル化、ハロゲン化、アルコシキ化などによる生成物も幅広く用いられる[2]

一般的には圧搾油であるが、粘度が680mP-sと高いため搾油は容易でない[2]。植物油としては極めて高粘度ではあるが粘度指数はさほど高くはなく、一般的な植物油[注釈 1]より大きく劣り、現代の潤滑用の一般鉱油よりも若干劣るレベルである。

一般的な植物油よりも吸湿性に富み、0.3%程度まで均質透明である[1]

医療用途

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Scott & Bowne companyによる医薬品としてのヒマシ油の広告(19世紀)
 
病気の子供にヒマシ油を飲ませる(1894年フランス)

医療用途としては便秘症の治療目的の下剤などとして用いられる[3]日本薬局方にも収載されている[6]。医師によってはリチネと略記する[7]

ひまし油が下剤として示す作用機序は、小腸で分解されて生成されるリシノール酸による蠕動運動亢進作用とグリセリンによる粘滑作用によるとされる[8]

四体液説がベースにあり、傷みやすい肉を常食していたヨーロッパ・アメリカの伝統医療で下剤としてよく使われた。ヒマシ油の服用は、千年近く正式な医療行為の一環だった。とくにアメリカ北部では現在も万能薬のように扱われている[9]

また、ケニアキクユ族は「maguta ma mbariki[10]あるいは単に「mbarĩki[11]と呼び、皮膚の保護や軽い傷の手当をする際などに用いる[12]

化粧品

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医薬品のほか化粧品にも用いられる[2]。『医心方』巻の四[注釈 2]には「髪に艶を出す方法」として、大麻子(トウゴマ)から取った汁、つまりひまし油を髪油として使うことが記載されている。

歴史

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古代のギリシャ時代から用いられ、中世ヨーロッパでは「キリストの御手(パーマ クリスティ)」と呼ばれており、その使用は主に排毒や下剤として使われていた[15]

いたずらの罰
  • アメリカでは昔、いたずらの罰として子供に飲ませることがあり、『トム・ソーヤの冒険』『若草物語』などの児童文学にそういった描写がある[9]
    • アニメ『トムとジェリー』の挿話『赤ちゃんはいいな』では、トムが飼い主の娘の赤ちゃんごっこに付き合わされた際に、トムは娘におとなしくしていなかった罰としてラストでひまし油をスプーンで無理矢理飲まされるというエピソードがある。その直後にトムは窓の外にひまし油を吐き、その様子を笑って見ていたジェリーも瓶から零れたひまし油を誤って飲んでしまいトムと同様に吐いている。
    • スティーヴン・キング原作の映画『スタンド・バイ・ミー』の劇中で語られるエピソードで、ベリーパイの早食い大会を滅茶苦茶にしようと企む少年が、事前にひまし油を服用し盛大に嘔吐し、他の選手もそれにつられて嘔吐し始め、みごと大会を混乱の渦に叩き込んだ、というものがある。
緩下作用
  • 戦後日本でも、天ぷら油として使われ飲食者の下痢を招いた。風味は良かったという者もいる[16]

文化

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  • カストロール(Castrol)社の名称は、ひまし油の英語名(castor oil)に由来する[17]
  • アニメ『ポパイ』の主人公の恋人オリーブ・オイルの兄はキャスター・オイル(Castor Oyl(英語版)という名であるが、同様にひまし油の英語名をもじっている。

画像一覧

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関連文献

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脚注

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注釈

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  1. ^ 粘度VIはそれぞれ菜種油117[4]コーン油298[4]ひまわり油205[5]大豆油301[4]
  2. ^ 『医心方』原書[13]に対する解説付きの現代版がある[14]

出典

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  1. ^ a b c d 飯場雅実、前田和磨、伊藤大展「ヒマシ油系ポリウレタンの特性と応用」『日本接着学会誌』第55巻第5号、日本接着学会誌、2019年、299-215頁。 
  2. ^ a b c d e スリランカ国 スリランカ国北部・東部州のヒマ栽培による低炭素・エネルギー自給型コミュニティー形成 事業準備調査(BOPビジネス連携促進)”. 独立行政法人国際協力機構. 2024年7月20日閲覧。
  3. ^ a b III 違反事例 添加物製剤(香料)に関する違反事例”. 東京都保健医療局. 2024年7月20日閲覧。
  4. ^ a b c 灘野宏正、中迫正一、河野正来、南一郎、山口博幸「四球試験における植物油の耐焼付き性能に及ぼす耐摩耗添加剤の影響 [Fig. 1. Variation in kinematic viscosity of base oils against oil temperature]」『日本機械学会論文集(C編)』第70巻690号 (20042)、doi:10.1299/kikaic.70.554ISSN 0387-5024NAID 1300042350802018年10月4日閲覧 
  5. ^ 光宗将太「植物油に適する耐摩耗添加剤の開発 [平成12年度卒業研究]」、高知工科大学 工学部物質・環境システム工学科、2001年3月、2018年10月4日閲覧 
  6. ^ 日本薬局方 加香ヒマシ油”. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構. 2018年10月4日閲覧。
  7. ^ 日本薬剤師会 2008, p. 62.
  8. ^ 内田勝幸、松枝啓「ヒマシ油惹起のラットの下痢における構成型一酸化窒素合成酵素による一酸化窒素およびプロスタグランジンの関与」『日本薬理学雑誌』第110巻第2号、1997年、77-82頁。 
  9. ^ a b 秦野啓、司馬炳介『魔法の薬 : マジックポーション』57号、新紀元社編集部; ファーイースト・アミューズメント・リサーチ [編]、新紀元社〈Truth in fantasy〉、2002年。ISBN 4-7753-0095-4 
  10. ^ (英語)Castor Oil: Maguta ma Mbariki”. 2016年1月5日閲覧。
  11. ^ (英語)Kikuyu Language online: phonology”. 2016年1月5日閲覧。
  12. ^ 杜 2015, p. 225.
  13. ^ 丹波康頼医心方』 4巻、出版者不明、1860年。 
  14. ^ 丹波康頼『医心方』 巻4: 美容篇、槙佐知子筑摩書房、1993年。ISBN 9784480505149NCID BN09250206 
  15. ^ 藤野清次「情報検索による歴史上難事件のサイエンス発見」『情報処理学会研究報告』、情報処理学会、2016年。 
  16. ^ 平野, 小林 1976, p. 285.
  17. ^ History of Castrol [カストロール社の沿革]” (英語). BP p.l.c.. 2014年6月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年6月8日閲覧。
  18. ^ 丹波康頼『醫心方』 4巻、與謝野寛; 正宗敦夫; 與謝野晶子 [編纂校訂]、日本古典全集刊行會〈日本古典全集〉、1935年。 NCID BN06180057 

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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