クマノミ亜科
クマノミ亜科(隈之魚、熊之実、隈魚[1])は、スズメダイ科の亜科の一つ。2属30種が所属し[2]、一般的にクマノミと呼ばれるが、この名はクマノミ亜科の1種 Amphiprion clarkii の標準和名として与えられている(クマノミを参照)。鮮やかな体色、大型イソギンチャクとの共生、性転換など多くの特徴を持ち、鑑賞魚としても広く利用される一群である。
クマノミ亜科 | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||||||||
Clownfish, Anemonefish, Sea bee |
特徴
編集すべて海水魚で、インド太平洋熱帯域のサンゴ礁に分布する[3]。日本近海では本州中部以南に6種が知られる[4][5][6]。食性は雑食性で、小型甲殻類や付着藻類を食べる[5]。
他のスズメダイ科魚類と同じく、左右に平たく側扁した体型を持つ。この体つきはサンゴの枝やイソギンチャクの触手の間をすり抜けるのに都合がよい。成魚の全長は10-15cm程度。体色は鮮やかで、0-3本の白い横縞を持つ[3]。
背鰭の棘条は通常10本、まれに9本または11本で、軟条は14-20本[3]。横列鱗数は50-78枚、鰓蓋骨は鋸歯状である点が、スズメダイ科に属する他の亜科(背鰭棘条12-14本、横列鱗数40枚未満、鰓蓋骨は非鋸歯状)との鑑別点になっている[3]。
生態
編集イソギンチャクとの共生
編集何らかの形でイソギンチャクと関わりを持つ魚類は多いものの、クマノミ類とイソギンチャクの共生関係は最も高度に発達したものとなっている[7]。すべての種がハタゴイソギンチャク科の大型イソギンチャク類と共生する。通常イソギンチャクの触手に触れた動物は刺胞による攻撃を受けるが、クマノミ類は刺胞に対する免疫を持つため、触手に触れても問題なく行動できる[7]。ただしこれは生まれもった体質ではなく、幼魚が徐々にイソギンチャクと触れ合うことで免疫を獲得する[5]。このメカニズムは完全には解明されていないが、体表の粘液分泌もまた、刺胞毒への順応に不可欠な役割を果たすとみられている[7]。
両者の関係は一般に相利共生と考えられている[7]。クマノミ類はイソギンチャクの触手の中で外敵による捕食を避け、自身と卵を守りつつ、他の共生生物やイソギンチャクそのものを餌とする[7]。一方で、クマノミはチョウチョウウオなど、イソギンチャクを狙う他の生物を追い払う[7]。さらに、イソギンチャク表面のゴミを取り除き、餌となりそうな有機物をイソギンチャクに運び、共生藻類の繁殖を促すような行動が観察されている[7]。この関係を通じてイソギンチャク側が得る利益は大きく、クマノミと共生するイソギンチャクはそうでない場合と比べて、高い成長率と無性生殖率、および低い死亡率を示すことがわかっている[7]。
クマノミ類は孵化する前の卵の時点で、将来の宿主となるイソギンチャクの匂いを刷り込まれる[7]。成魚が住み着くイソギンチャクは生涯にただ一つで、数メートル以上離れることもまれである[7]。
同じハタゴイソギンチャク科各種に共生する動物として、クマノミと同じスズメダイ科のミツボシクロスズメダイ、甲殻類ではイソギンチャクカクレエビ、アカホシカニダマシなどが知られている。
繁殖行動
編集一つのイソギンチャクには、通常複数のクマノミが共生する。この中で最大の個体が雌、2番目に大きい個体がつがいの雄となり、残りの個体は繁殖に参加しない。雌がいなくなると、つがいの雄だった個体が雌に性転換し、3番目に大きい個体が雄に昇格して新たなペアが形成される。このように雄から雌へと性転換することを雄性先熟と呼ぶ。
宿主のイソギンチャクにごく近い岩場に産卵し、産卵後はつがいで卵に水を送ったりゴミを取り除いたりと、こまごました世話をする。これはスズメダイ科に共通する習性である。卵から孵化した仔魚は数日にわたる浮遊生活を送った後、海底のイソギンチャク類に定着する[5]。
人間とのかかわり
編集和名「クマノミ」は色分けされた体色を歌舞伎役者の隈取に見立てたもので、「ミ」は魚介を表す接尾語とされる。また「隈」は隠れ場所を意味し、イソギンチャクの触手の間に隠れる行動に由来するという説もある。英名「Clownfish」は、イソギンチャクと戯れるような行動がクラウン(ピエロ)のようであることに由来する。またイソギンチャク(Sea Anemone)に寄り添うことから「Anemonefish」、さらに花に群がるミツバチに見立てての「Sea bee」という呼称もある[1]。
2003年にヒットした映画「ファインディング・ニモ」はクマノミ亜科の魚を主人公とした作品である。日本版ディズニーの公式ページでは、主人公のニモをカクレクマノミとしている[8]。しかし、ニモのモデルはクラウンアネモネフィッシュ(ペルクラ種)であるという意見もある[9]。
地球温暖化の影響
編集クマノミが利用するイソギンチャクは、人為的な地球温暖化による海水温の上昇で白化し死亡するため、それに伴ってクマノミも減少する可能性が指摘されている[10]。
沖縄県においては、1998年に高温が続いたことによるシライトイソギンチャクの白化で、大きなシライトイソギンチャクを利用できなくなったハナビラクマノミが局所的に絶滅している[11][10]。
分類
編集30種が属する(FishBaseに基づく:2014年6月現在)[2]。Premnas 属はクマノミ属 Amphiprion のシノニムとして扱われる場合もある[3]。
- Amphiprion ocellaris Cuvier, 1830 - カクレクマノミ
- Amphiprion percula (Lacépède, 1802) - Orange clownfish オーストラリア北東部の熱帯海域に分布する[2]。
- Premnas biaculeatus (Bloch, 1790) Spinecheek anemonefish: Amphiprion 属とされることもある[12]。
- Amphiprion latezonatus Waite, 1900 - Wide-band Anemonefish
- Amphiprion clarkii (Bennett, 1830) - クマノミ : Yellowtail clownfish
- Amphiprion chrysopterus Cuvier, 1830 - Orangefin anemonefish
- Amphiprion akindynos Allen, 1972 - Barrier reef anemonefish
- Amphiprion mccullochi Whitley, 1929 - Whitesnout anemonefish
- Amphiprion akallopisos Bleeker, 1853 - Skunk clownfish
- Amphiprion pacificus Bleeker, 1855 [14]
- Amphiprion sandaracinos Allen, 1972 セジロクマノミ Yellow clownfish
- Amphiprion perideraion Bleeker, 1855 ハナビラクマノミ Pink anemonefish
- Amphiprion polymnus (Linnaeus, 1758) - トウアカクマノミ : Saddleback clownfish
- Amphiprion sebae Bleeker, 1853 - Sebae anemonefish
- Amphiprion frenatus Brevoort, 1856 - ハマクマノミ : Tomato clownfish
- Amphiprion rubrocinctus Richardson, 1842 - Red Anemonefish
- Amphiprion melanopus Bleeker, 1852 - Fire clownfish
- Amphiprion barberi Allen, Drew & Kaufman, 2008 [15]
- Amphiprion ephippium (Bloch, 1790) - Saddle anemonefish
- Amphiprion chrysogaster Cuvier, 1830 - Mauritian anemonefish
- Amphiprion allardi Klausewitz, 1970 - Twobar anemonefish
- Amphiprion bicinctus Ruppell, 1830 - Twoband anemonefish
- Amphiprion omanensis Allen et Mee, 1991 - Oman anemonefish
- Amphiprion nigripes Regan, 1908 - Maldive anemonefish ハマクマノミに似るが、目の後方の白線がやや細く、色合いも淡いオレンジ色をしていることで区別できる。
- Amphiprion chagosensis Allen, 1972 - Maldive anemonefish
- Amphiprion fuscocaudatus Allen, 1972 - Seychelles anemonefish
- Amphiprion latifasciatus Allen, 1972 - Madagascar anemonefish
- Amphiprion tricinctus Schultz et Welander, 1953 - Maroon clownfish
系統
編集派生的な系統に属する種ほど、体の横縞が少なく、体高が高くなる傾向にある。次のような系統樹が得られている[12]。
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日本近海に産する種
編集- クマノミ Amphiprion clarkii (Bennett, 1830)
- トウアカクマノミ A. polymnus (Linnaeus, 1758)
- カクレクマノミ A. ocellaris Cuvier, 1830
- ハマクマノミ A. frenatus Brevoort, 1856
- ハナビラクマノミ A. perideraion Bleeker, 1855
- セジロクマノミ A. sandaracinos Allen, 1972
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トウアカクマノミ
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ハマクマノミ
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ハナビラクマノミ
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セジロクマノミ
脚注
編集- ^ a b 『魚の名前』
- ^ a b c “Amphiprioninae in fishbase”. 2014年6月15日閲覧。
- ^ a b c d e 『Fishes of the World Fourth Edition』 p.393
- ^ 『野外観察図鑑4 魚』
- ^ a b c d e f g h i 『日本の海水魚』 pp.434-437
- ^ 『日本産魚類検索 全種の同定 第三版』 pp.1030-1031
- ^ a b c d e f g h i j 『The Diversity of Fishes Second Edition』 pp.494-495
- ^ “キャラクター”. Disney Blu-ray & Digital. 2017年10月23日閲覧。
- ^ “7/28 ニモのモデルはクラウンアネモネフィッシュ”. 名古屋港水族館 (2014年7月24日). 2017年10月23日閲覧。
- ^ a b Jean-Paul Hobbs & Ashley J Frisch (2016年5月31日). “Saving Nemo: how climate change threatens anemonefish and their homes”. The Conversation 2024年9月21日閲覧。
- ^ Akihisa Hattori (2002). “Small and large anemonefishes can coexist using the same patchy resources on a coral reef, before habitat destruction”. Journal of Animal Ecology 71: 824-831. doi:10.1046/j.1365-2656.2002.00649.x.
- ^ a b Santini, Simona and Polacco, Giovanni (2006). “Finding Nemo: Molecular phylogeny and evolution of the unusual life style of anemonefish”. Gene 385: 19-27. doi:10.1016/j.gene.2006.03.028.
- ^ Ollerton, Jeff and McCollin, Duncan and Fautin, Daphne G and Allen, Gerald R (2007). “Finding NEMO: nestedness engendered by mutualistic organization in anemonefish and their hosts”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 274 (1609): 591-598. doi:10.1098/rspb.2006.3758.
- ^ Allen, Gerald R and Drew, Joshua and Fenner, Douglas (2010). “Amphiprion pacificus, a new species of anemonefish (Pomacentridae) from Fiji, Tonga, Samoa, and Wallis Island”. Aquaculture 16: 129-138 .
- ^ Allen, Gerald R and Kaufman, Les and Drew, Joshua Adam (2008). “Amphiprion barberi, a new species of anemonefish (Pomacentridae) from Fiji, Tonga, and Samoa”. Aqua 14 (3): 105-114 .
- ^ 『新装版山渓フィールドブックス3 海辺の生きもの』
- ^ a b c d e f 『新装版山渓フィールドブックス4 サンゴ礁の生きもの』
- ^ a b c d 『ヤマケイポケットガイド16 海辺の生き物』
- ^ 『エコロン自然シリーズ 魚』
- ^ a b c 『ダイバーのための海中観察図鑑』 pp.28-30
参考文献
編集- Gene S. Helfman, Bruce B. Collette, Douglas E. Facey, Brian W. Bowen 『The Diversity of Fishes Second Edition』 Wiley-Blackwell 2009年 ISBN 978-1-4051-2494-2
- Joseph S. Nelson 『Fishes of the World Fourth Edition』 Wiley & Sons, Inc. 2006年 ISBN 0-471-25031-7
- 岡村収・尼岡邦夫監修 山渓カラー名鑑 『日本の海水魚』 (解説:荒賀忠一) 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2
- 奥谷喬司・楚山勇 『新装版山渓フィールドブックス3 海辺の生きもの』 2006年 山と渓谷社 ISBN 4635060608
- 奥谷喬司・楚山勇 『新装版山渓フィールドブックス4 サンゴ礁の生きもの』 2006年 山と渓谷社 ISBN 4635060616
- 蒲原稔治著・岡村収補訂 『エコロン自然シリーズ 魚』 保育社 1966年初版・1996年改訂版 ISBN 4586321091
- 小林安雅 『ヤマケイポケットガイド16 海辺の生き物』 2000年 山と渓谷社 ISBN 4635062260
- 中坊徹次編 『日本産魚類検索 全種の同定 第三版』 東海大学出版会 2013年 ISBN 978-4-486-01804-9
- 中村庸夫 『魚の名前』 2006年 東京書籍 ISBN 4487801168
- 檜山義夫監修 『野外観察図鑑4 魚』 旺文社 1985年初版・1998年改訂版 ISBN 4010724242
- 吉野雄輔 『ダイバーのための海中観察図鑑』 PHP研究所 1997年 ISBN 9784569547152