コルチゾール
コルチゾール(Cortisol)は、副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドの一種であり、医薬品としてはヒドロコルチゾン (hydrocortisone) とも呼ばれる。炭水化物、脂肪、およびタンパク代謝を制御し、生体にとって必須のホルモンである。3種の糖質コルチコイドの中で最も生体内量が多く、糖質コルチコイド活性の約95%はこれによる。ストレスによっても分泌が亢進される。分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらす。
コルチゾール | |
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11β,17α,21-Trihydroxypregn-4-ene-3,20-dione | |
(1R,3aS,3bS,9aR,9bS,11aS)-1,10-Dihydroxy-1-(hydroxyacetyl)-9a,11a-dimethyl-1,2,3,3a,3b,4,5,8,9,9a,9b,10,11,11a-tetradecahydro-7H-cyclopenta[a]phenanthen-7-one | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 50-23-7 |
PubChem | 5754 |
ChemSpider | 5551 |
UNII | WI4X0X7BPJ |
DrugBank | DB00741 |
KEGG | D00088 |
ChEBI | |
ChEMBL | CHEMBL389621 |
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特性 | |
化学式 | C21H30O5 |
モル質量 | 362.46 g mol−1 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
日本薬局方医薬品としてはヒドロコルチゾンの名称で収載される、ステロイド系抗炎症薬(SAID)の1つとして臨床使用される。ステロイド系抗炎症薬は炎症反応を強力に抑制し、炎症の全ての過程に作用する。急性炎症、慢性炎症、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、ショック、痛風、急性白血病、移植片拒絶反応などの治療に使用される。副腎皮質機能不全、クッシング症候群、胃潰瘍などの副作用が現れる場合もある。
効果
編集胃および腎臓
編集コルチゾールは胃酸分泌を活性化させる[1]。腎臓の水素イオン排泄に対してのコルチゾールの唯一の直接的影響は、腎臓のグルタミナーゼ酵素を不活性化することによってアンモニウムイオン排泄を活性化させることである[2]。
概日リズム
編集ヒトにおいては、コルチゾールレベルについての概日リズムが確認されている[3]。
ストレスと気分
編集持続的なストレスによって、高レベルの循環コルチゾール(いくつかのストレスホルモンのうち[4]、最も重要なものの1つとみなされている)が引き起される可能性がある。そのようなレベルではアロスタティック負荷となり、体の制御ネットワークにさまざまな物理的不調をもたらす可能性がある[5]。
コルチゾール産生障害
編集適正なコルチゾール値は人体の健康に不可欠であり、その値が過剰あるいは低下すると、多彩な状態がもたらされる。
コルチゾール低値
編集コルチゾール低値では、アジソン病、先天性副腎低形成症(IMAge症候群、ACTH不応症、Triple A症候群(Allgrove症候群))、先天性副腎皮質過形成症、副腎性ACTH単独欠損症、シーハン症候群、ACTH非産生性の下垂体腫瘍、下垂体性副腎皮質機能低下症、視床下部性副腎皮質機能低下症などが疑われる。
コルチゾール高値
編集コルチゾール高値では、クッシング病、クッシング症候群、グルココルチコイド不応症、異所性ACTH産生腫瘍、異所性CRH産生腫瘍、糖質コルチコイド不応症などが疑われる。
レギュレーション
編集コルチゾール値は、コルチゾール分泌をうながすホルモンである下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって増減する。さらにACTHは、視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)によって増減する。そのため、コルチゾールが異常値かもしれないと疑われた場合、ACTHとともに測定する。
コルチゾールは鉱質コルチコイド受容体(MCR)を刺激し[6]、それによってナトリウムが再吸収されて高血圧に導くと同時にカリウムの排出も行う。MCRの刺激は心臓および腎臓の線維化にも関与する[7]。
また、このホルモンは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年PTSD患者の脳のMRIなどを例として観察されている[8]。海馬は記憶形態に深く関わり、これらの患者の生化学的な影響とされる。
コルチゾールレベルの増加要因
編集コルチゾールレベルの減少要因
編集生合成
編集コルチゾールの前駆物質のコルチゾンは、コレステロールからプレグネノロンを経て生合成される。 プレグネノロン (pregnenolone) は、プロゲステロン、コルチコイド、アンドロゲン、およびエストロゲンのステロイド生成にかかわるプロホルモンである。プレグネノロンは体内であらゆるホルモンに変換されるプロホルモンである。プレグネノロンは、コレステロールから合成される。この反応では、C20とC22との間にヒドロキシル化反応が起こる。この反応を起こす酵素シトクロムP450sccはミトコンドリアにあり、脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンによって制御されている。
コルチゾンとアドレナリンは人体がストレスに対して反応する際に放出される主なホルモンである。これらは血圧を上昇させ、体を闘争または逃避反応 (fight or flight response) に備えさせる。 活性体であるホルモンであるコルチゾールの前駆体であり、コルチゾン自体は不活性である。11-β-ステロイド脱水素酵素と呼ばれる酵素の働きによって、11位のケトン基がヒドロキシル化されることで活性化する。このため、コルチゾールはヒドロコルチゾンと呼ばれることもある。類似のステロイドであるコルチゾールよりも重要性は低い。糖質コルチコイドがもたらす作用のうち95%はコルチゾールによるものであり、コルチゾンの寄与は4%–5%に過ぎない。コルチコステロンはさらに重要性が低い。
出典
編集- ^ The Human Adrenal Gland. Philadelphia: Lea & Febiger. (1961)
- ^ “Role of glucocorticoids in regulating the acid-excreting function of the kidneys”. Fiziologicheskii Zhurnal SSSR Imeni I. M. Sechenova 65 (5): 751–4. (May 1979). PMID 110627.
- ^ “The adrenal gland”. McDonald's veterinary endocrinology and reproduction (5th ed.). Ames, Iowa: Iowa State Press. (2003). ISBN 978-0-8138-1106-2
- ^ “Neuroendocrine Measures”. The Handbook of Stress Science: Biology, Psychology, and Health. New York: Springer Publishing Company. (2010). p. 351. ISBN 978-0-8261-1771-7 12 March 2020閲覧. "[...] epinephrine, norepinephrine, and cortisol are considered the most important 'stress hormones,' although a number of other hormones are also influenced by stress [...]."
- ^ “The social determinants of health: it's time to consider the causes of the causes”. Public Health Reports 129 (Suppl 2): 19–31. (2014). doi:10.1177/00333549141291S206. PMC 3863696. PMID 24385661 .
- ^ a b 柴田洋孝, 「3. 偽性アルドステロン症」『日本内科学会雑誌』 95巻 4号 2006年 p.671-676, doi:10.2169/naika.95.671
- ^ 長瀬、藤田「腎とアルドステロン, ミネラロコルチコイド受容体」『日本腎臓学会誌』第52巻第2号、2010年3月25日、125-131頁、NAID 10026289842。
- ^ 山脇成人 (2005年). “うつ病の脳科学的研究:最近の話題” (pdf). 129回日本医学会シンポジウム. 2021年8月13日閲覧。 8-9頁を参照。
- ^ ストレスホルモンを測る 労働安全衛生総合研究所 2016年
- ^ Impact of Sleep Debt on Metabolic and Endocrine Function ランセット 1999年
- ^ Schulreich, Stefan; Tusche, Anita; Kanske, Philipp; Schwabe, Lars (2022-03-14). “Altruism under stress: cortisol negatively predicts charitable giving and neural value representations depending on mentalizing capacity” (英語). Journal of Neuroscience. doi:10.1523/JNEUROSCI.1870-21.2022. ISSN 0270-6474. PMID 35288436 .
- ^ Stress-like Adrenocorticotropin Responses to Caffeine in Young Healthy Men Pharmacology Biochemistry and Behavior 1996年
- ^ Blunting by chronic phosphatidylserine administration of the stress-induced activation of the hypothalamo-pituitary-adrenal axis in healthy men. European Journal of Clinical Pharmacology 1992年
- ^ Effects of Soy Lecithin Phosphatidic Acid and Phosphatidylserine Complex (PAS) on the Endocrine and Psychological Responses to Mental Stress Stress 2004年
- ^ “Effect of Magnolia officinalis and Phellodendron amurense (Relora®) on cortisol and psychological mood state in moderately stressed subjects.”. Journal of the International Society of Sports Nutrition. (2013). doi:10.1186/1550-2783-10-37. PMID 23924268.
- ^ “トンカットアリとは?効果やテストステロンの変化について、医師が解説 | クリニックTEN 渋谷”. クリニックTEN 渋谷 | 渋谷のかかりつけクリニック (2021年6月2日). 2021年11月15日閲覧。
参考文献
編集- 伊藤勝昭ほか編集『新獣医薬理学 第二版』近代出版、2004年、ISBN 4874021018