プリマキン
プリマキン(Primaquine)はマラリアおよびニューモシスチス肺炎(海外)の治療に用いられる医薬品である。8-アミノキノリン誘導体であり、タフェノキンやパマキンの類縁物質である。
IUPAC命名法による物質名 | |
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臨床データ | |
販売名 | プリマキン錠15mg「サノフィ」 |
Drugs.com | monograph |
MedlinePlus | a607037 |
法的規制 |
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薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 96%[1] |
代謝 | 肝代謝 |
半減期 | 6 時間 |
排泄 | ? |
データベースID | |
CAS番号 | 90-34-6 |
ATCコード | P01BA03 (WHO) |
PubChem | CID: 4908 |
DrugBank | DB01087 |
ChemSpider | 4739 |
UNII | MVR3634GX1 |
KEGG | D08420 |
ChEBI | CHEBI:8405 |
ChEMBL | CHEMBL506 |
化学的データ | |
化学式 | C15H21N3O |
分子量 | 259.347 g/mol |
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プリマキンは1940年代に最初に合成された[2]。
WHO必須医薬品モデル・リストに収載されている[3]。
効能・効果
編集日本では「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」として開発された経緯から、三日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫の休眠体(ヒプノゾイト)を殺滅する目的のみに使用を許可されている[4]。
ヒプノゾイトの殺滅には14日間の服薬が必要とされている[5]。これは「根治療法」と呼ばれている。三日熱マラリアまたは卵形マラリア以外に使用すると、高い確率で再発するが、再発までの期間は数週間から数ヶ月、時には数年掛かる。プリマキンにキニーネまたはクロロキンを併用すると、根治率が高くなる[6]。メフロキン等の他の抗マラリア薬ではプリマキンの様なヒプノゾイト殺滅作用は知られていない。
海外では以上の他に以下の様に用いられる。
流行拡大防止
編集プリマキンは1回投与で熱帯熱マラリア原虫の成熟ガメトサイト(生殖母体、ステージV)に対して速やかな殺滅作用を持つが、他の抗マラリア薬は成熟前ガメトサイトに対しては効果があるものでもの成熟ガメトサイトには無効である[7]。この効果はハマダラカへの原虫の移行を阻止し、プリマキンの同時投与によりヒト血液中の熱帯熱マラリア原虫のメロゾイトを殺滅し、低流行地域での感染拡大防止に貢献する。WHOはプリマキンの1回投与は(G6PD欠損症の患者でさえ)安全であり、熱帯熱マラリアの感染予防に有効であるとしている[8]。
感染予防
編集プリマキンはマラリア予防のために旅行者に定常的に投与すべきものではないが、G6PD欠損症のない旅行者では、他の薬剤が使えない場合に用いることが可能である[9]。熱帯熱マラリアよりも三日熱マラリアが流行している地域では、プリマキンはドキシサイクリンやメフロキンよりも有効である[10]。
ニューモシスチス肺炎
編集プリマキンは、AIDS患者や免疫抑制剤を使用中の患者でのニューモシスチス肺炎(PCP)の治療にも有効である。PCPの治療には通常、クリンダマイシンが併用される。
禁忌
編集大まかに言えば、プリマキンはG6PD欠損症の患者で溶血性貧血を起こすので、投与してはならない[11]。しかし、WHOはプリマキンの1回投与はG6PD欠損症患者でも安全であり、熱帯熱マラリアの感染予防のために服用すべきとしている[8]。
また妊婦に対しては、胎児のG6PDの状態が不明であるので禁忌とされる。動物実験では器官形成期に異常を生じた例がある。
全身性エリテマトーデスや関節リウマチでは顆粒球が減少しており、顆粒球低下が起こりやすいことから、慎重投与とされている[4][9]。
副作用
編集重大な副作用は、溶血性貧血、白血球減少、メトヘモグロビン血症(いずれも頻度不明) である。
一般的な副作用は、嘔気、嘔吐、胃痙攣である。頻度の低い副作用は、頭痛、視覚障害、激しい瘙痒感である。
これらのうち、最も危険な副作用はG6PD欠損症患者(アフリカ系および地中海人種)での溶血性貧血である[11][12]。これは数日間の高用量投与で致命的転帰を辿ることが知られているが、報告数は少ない。
プリマキンはメトヘモグロビン血症を生ずる(通常1%未満 最高18%)が、症状はほとんど現れず、または自己限定性(加療せずとも治癒する)である[13]。この症状はシトクロムb5レダクターゼ欠損に関係している[14]。
開発の歴史
編集プリマキンが最初にヒトで試験されたのは1944年のStateville Penitentiary Malaria Studyであった。1952年に米国で承認された。
英国では承認されていないが、患者アクセスプログラムに登録することで入手できる。
日本では日本医療研究開発機構の熱帯病治療薬研究班に所属する医療機関でのみ使用されていたが、日本熱帯医学会および日本感染症教育研究会からの要望で厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に取り上げられ、2012年4月に企業に開発が要請され[15]、2016年3月に承認された[16]。
獣医学領域での使用
編集出典
編集- ^ “Pharmacokinetics of primaquine in man. I. Studies of the absolute bioavailability and effects of dose size”. Br J Clin Pharmacol 19 (6): 745–50. (1985). doi:10.1111/j.1365-2125.1985.tb02709.x. PMC 1463857. PMID 4027117 .
- ^ “Primaquine, SN 13272, a new curative agent in vivax malaria; a preliminary report.”. Journal National Malaria Society 9 (4): 285–92. (1950). PMID 14804087.
- ^ “WHO Model List of EssentialMedicines”. World Health Organization (October 2013). 22 April 2014閲覧。
- ^ a b “プリマキン錠15mg 添付文書” (2016年6月). 2016年6月19日閲覧。
- ^ Baird JK, Rieckmann KH (March 2003). “Can primaquine therapy for vivax malaria be improved?”. Trends Parasitol. 19 (3): 115–20. doi:10.1016/S1471-4922(03)00005-9. PMID 12643993.
- ^ Gordon, H. H.; Dieuaide, F. R. (1947). “Treatment of Plasmodium vivax malaria of foreign origin; a comparison of various drugs”. Archives of internal medicine (Chicago, Ill. : 1908) 79 (4): 365–80. doi:10.1001/archinte.1947.00220100015001. PMID 20294552.
- ^ Eziefula, A. C.; Bousema, T; Yeung, S; Kamya, M; Owaraganise, A; Gabagaya, G; Bradley, J; Grignard, L et al. (2014). “Single dose primaquine for clearance of Plasmodium falciparum gametocytes in children with uncomplicated malaria in Uganda: A randomised, controlled, double-blind, dose-ranging trial”. The Lancet Infectious Diseases 14 (2): 130–9. doi:10.1016/S1473-3099(13)70268-8. PMID 24239324.
- ^ a b Single dose primaquine as a gametocytocide in Plasmodium falciparum malaria. Geneva, Switzerland: World Health Organization. (October 2012) 2 January 2014閲覧。
- ^ a b Hill, D. R.; Baird, J. K.; Parise, M. E.; Lewis, L. S.; Ryan, E. T.; Magill, A. J. (2006). “Primaquine: Report from CDC expert meeting on malaria chemoprophylaxis I”. The American journal of tropical medicine and hygiene 75 (3): 402–15. PMID 16968913.
- ^ Schwartz, E; Regev-Yochay, G (1999). “Primaquine as prophylaxis for malaria for nonimmune travelers: A comparison with mefloquine and doxycycline”. Clinical Infectious Diseases 29 (6): 1502–6. doi:10.1086/313527. PMID 10585803.
- ^ a b Tarlov, A. R.; Brewer, G. J.; Carson, P. E.; Alving, A. S. (1962). “Primaquine sensitivity. Glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency: An inborn error of metabolism of medical and biological significance”. Archives of Internal Medicine 109: 209–34. doi:10.1001/archinte.1962.03620140081013. PMID 13919680.
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- ^ Clayman, C. B.; Arnold, J; Hockwald, R. S.; Yount Jr, E. H.; Edgcomb, J. H.; Alving, A. S. (1952). “Toxicity of primaquine in Caucasians”. Journal of the American Medical Association 149 (17): 1563–8. doi:10.1001/jama.1952.72930340022010b. PMID 14945980.
- ^ Cohen, R. J.; Sachs, J. R.; Wicker, D. J.; Conrad, M. E. (1968). “Methemoglobinemia provoked by malarial chemoprophylaxis in Vietnam”. New England Journal of Medicine 279 (21): 1127–31. doi:10.1056/NEJM196811212792102. PMID 5686480.
- ^ “【第II回開発要望】医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議での検討結果を受けて開発企業の募集または開発要請を行った医薬品のリスト(No.55)”. 厚生労働省 (2012年4月6日). 2016年6月18日閲覧。
- ^ “医療上の必要性の高い未承認薬プリマキン錠15mg「サノフィ」の製造販売承認取得について”. サノフィ (2016年3月28日). 2016年6月18日閲覧。
- ^ Jacobsona LS, Schoemana T and Lobetti RG (2000). “A Survey of Feline Babesiosis in South Africa”. Journal of the South African Veterinary Association. 71 (4): 222–8. doi:10.4102/jsava.v71i4.719 .